東南アジアの中心部に位置するタイ。経済力や治安水準の高さゆえに、陸続きの周辺国から多くの人がやってくる。一方で、タイから周辺国に向かう人びとの流れも存在する。その一例が、カジノでの享楽を求めるギャンブル愛好家たちだ。なぜ彼らは隣国を目指すのか。
【連載】カジノフロンティア 岐路に立つ東南アジア
人、カネ、そして犯罪までも。カジノは様々なものを引きつけます。それを手に入れた先に待ち受けるのは、経済的な繁栄か、それとも混沌(カオス)か。岐路に立つ東南アジアの実情を、各国の現場から報告します。
首都バンコクから東に車で4時間の国境地帯。偽ブランド品の問屋街を抜け、仕事や買い付けでタイ側に向かう労働者の流れに逆らって歩く。トラックが列をなす国境ゲートの脇を抜け、入国審査場を通過すれば、そこはカンボジア側の街、ポイペトだ。
この街に連日、タイから多くの客が訪れる。目当ては、国境に沿うように並び立つカジノだ。
ある休日、タイ・カンボジアを結ぶ幹線道路沿いのカジノに入ってみた。玄関で手荷物検査を受ける。不正防止のため帽子を脱ぐよう促されたが、入場料は取られず、身分証の提示も求められなかった。ドレスコードもなく、Tシャツに短パン姿の軽装の客が目立つ。
賭場にあふれる客の多くは高齢の男女で、東アジア系に見える。「ヘンヘン!」。カードゲーム「バカラ」の参加客が、口々にそう唱える。「グッドラック」という意味で、タイでは資本家層である中華系の人々がよく使う言葉だ。ある人はくわえたばこでみけんにしわを寄せ、ある人は貧乏揺すりをして賭けにのめり込む。時折、歓声が上がった。
「客のほとんどはタイから来ますよ」
「客のほとんどはタイから来ますよ」。スーツ姿の従業員が言う。掛け金の支払いはカンボジアの通貨リエルではなく、基本的にタイ・バーツだという。店内外の掲示も英語や中国語とタイ語。カンボジア人従業員も流暢(りゅうちょう)なタイ語を話す。まるでタイにいるようだ。
リピーターが対象のバンコク発の送迎サービスがあること。新規の客を連れてくれば、もうけの数%分を「手数料」として還元すること――。この従業員は、タイ人向けの様々な「特典」を耳打ちしてきた。
ポイペトにあるカジノの客たちは、どこから、どうやって、なぜ、この地を訪れるのか。記事後半では、カンボジアまで足を運ぶ日本人たちの声も紹介します。
別のカジノでは、腕に入れ墨…